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芸劇ウインド・オーケストラ 第2回演奏会

バージョンA

バージョンB

未来のトップ奏者たちが集った吹奏楽団のきらめき

オザワ部長(吹奏楽作家)

「芸劇ウインド・オーケストラ・アカデミー」は次世代のプロ演奏家を育成するため、2014年に東京芸術劇場がスタートさせた意欲的なプロジェクトです。第1回である昨年度の演奏会には井上道義氏、第2回である今回は秋山和慶氏という超一流の指揮者を迎えていること、また、前回は権代敦彦氏、今回は長生淳氏へ新曲を委嘱していることからもお分かりのとおり、東京芸術劇場が芸劇ウインド・オーケストラ・アカデミーに向ける期待と情熱は並々ならぬものがあります。
 そして、それに応えるように、夢と希望を胸に集った42名の若者たち――彼らこそ、東京芸術劇場がその才能を見込んだ《未来のトップ奏者》なのです。現在20~28歳という伸び盛りのメンバーの中には、音大生もいれば、すでにプロとして活動している人もいます。そんな彼らが共通して持っているのは、「もっと上を目指したい、一流の存在になりたい」という健全なる野心でしょう。
 在籍が3年間に限定された芸劇ウインド・オーケストラ・アカデミーは、どこか中学校や高校の吹奏楽部に似たところがあるかもしれません。と同時に、メンバーは東京佼成ウインドオーケストラのメンバーによるオーディションなどを経て選ばれた精鋭でもあります。きっとこの第2回演奏会にいらっしゃった皆さんは、才能に恵まれた若者たちが限られた時間の中で生命を燃焼させる《奇跡のような音楽のきらめき》を目撃することができるでしょう。演奏される5つの楽曲は、芸劇ウインド・オーケストラのメンバーの未来を祝福するのにふさわしいラインナップとなっています。ぜひお楽しみください。

G.パレス(建部知弘編曲) 序曲「リシルド」

《序曲「リシルド」》は、いわば吹奏楽の「隠れた人気曲」である。吹奏楽コンクールでは1960年代から現在に至るまで様々な団体に自由曲として取り上げられており、全日本吹奏楽コンクールでも1967年の得津武史先生率いる西宮市立今津中学校以来、多くの名演が記録されている。にも関わらず、この曲を耳にしたことがないという人も多く、「隠れた人気曲」という不思議な状況になっているのだ。
 作曲したフィリップ・シャルル・ガブリエル・パレス(1862-1934)は、ベルリオーズ《幻想交響曲》などの吹奏楽編曲も手がけているが、"世界最強"とも称されるフランスのギャルド・リピュブリケーヌ吹奏楽団の楽長として有名な人物である。ギャルド・リピュブリケーヌは「共和国親衛隊」のこと。その名のとおり軍楽隊だが、野外でのパレードなど一般的な軍楽隊のような活動は行わず、室内でのコンサートのみを行っている。
 曲名の「リシルド(Richilde)」とは、中世フランスに実在した女性領主の名前。かつてリシルドが治めていた地で1894年にギャルドが演奏を行う際、この曲をパレスが書き下ろした。ゆったりした叙情的な出だしから、一転して風雲急を告げるような中間部、勇壮で美しいエンディングへと至る。今回の芸劇ウインド・オーケストラの演奏をきっかけに「正真正銘の人気曲」になっても不思議のない曲である。

窪田恵美

窪田恵美(Fl/1期生/26歳)

「実は、私も楽譜をいただくまでこの曲のことを知りませんでした。第一印象は"シンプル"。旋律が際立ってつながっていくのが大きな魅力だと感じました。誰が聴いてもわかりやすく、入り込みやすい曲だと思うので、今回のコンサートの1曲目にぴったりだと思います。フルートはずっと旋律を吹き続けます。新鮮ですが、休みが少ないので少し大変です(笑)」

V.パーシケッティ バンドのためのディヴェルティメント

 ヴィンセント・パーシケッティ(1915-1987)はアメリカの作曲家。5歳でピアノを始め、14歳のときには自作曲を出版。早熟で才能あふれる人物であった。1963年からは名門のジュリアード音楽院の作曲科主任を務めた。生涯で百数十曲を作曲したが、この《バンドのためのディヴェルティメント》(作品42番)はパーシケッティが初めて作曲した吹奏楽曲である。初演は1951年。
 なお、「ディヴェルティメント(divertimento)」とは、イタリア語で「気晴らし」「娯楽」を意味し、快活な性格を持つ親しみやすくて楽しい音楽のこと。夜の野外音楽であるセレナードに対し、室内楽的なもののことである。日本語では一般的に「嬉遊曲」と訳される。
《バンドのためのディヴェルティメント》は、「プロローグ」「ソング」「ダンス」「バーレスク」「ソリロクイ(モノローグ、ひとり言)」「マーチ」の6楽章で構成。すべて3分以内の小品で、「プロローグ」は軽快で可愛らしく、「ソング」は優美な旋律が心に残る曲。「ダンス」は印象派風の楽しげな雰囲気があり、「バーレスク」は冒頭からバスがメロディを担当するおどけた感じの曲。「ソリロクイ」はまさにひとり言のようにトランペットソロがペーソスあふれるメロディを歌い上げ、「マーチ」の打楽器が活躍する元気な調べで《バンドのためのディヴェルティメント》は閉じられる。総じて、パーシケッティの持っているウィットと軽妙洒脱さが感じられる曲となっている。今回の芸劇ウインド・オーケストラの演奏では、パーシケッティの軽やかさと若い奏者の溌剌さとのコラボレーションが楽しみである。

小山田萌

小山田萌(Perc/1期生/25歳)

「雰囲気、テンポなどが違う6つの楽章からできている曲で、吹奏楽の魅力がギュッと詰まっています。美味しい小皿料理が出てくる感じでしょうか(笑)。個人的にお気に入りの楽章は『マーチ』。私はスネアドラム担当なのですが、リムショット(ドラムのふちを叩く)があるなど、派手めな演奏をします。ウッドブロックもいい仕事をしているのでぜひご注目を!」

P.ヒンデミット 吹奏楽のための交響曲 変ロ調

 パウル・ヒンデミット(1895-1963)は20世紀ドイツを代表する作曲家の一人である。第1次世界大戦後に頭角を現し、新しい芸術運動「新即物主義」の旗手として活躍。ところが、作品が「退廃音楽」だとしてナチスから迫害され、スイスを経てアメリカへ亡命。イェール大学などで教鞭をとった。第2次世界大戦後はアメリカとヨーロッパを行き来しながら作曲活動と教育活動を行った。
 1951年に初演された《吹奏楽のための交響曲 変ロ調》は、20世紀における吹奏楽オリジナル曲の最高傑作とも言われる名曲。全3楽章で、《第1楽章 活気をもって普通の速さで》は不穏な雰囲気を持ちながらも暗さに落ちることなくテンポよく進み、重々しい迫力を持って終わる。《第2楽章 やや遅く優美に》はコルネットの印象的なソロから始まり、そこにアルトサックスが絡まりながら進む。木管楽器の技巧が味わえる楽章だ。《第3楽章 フーガ やや幅広く》では、同じ旋律を別のパートが追いかけるように演奏していくフーガの見事さが秀逸で、聴く者をめくるめく音楽の綾に巻き込んだ後、第1楽章のテーマもろともに圧倒的なクライマックスを迎える。芸劇ウインド・オーケストラの技術と音楽性の高さをうかがい知ることができる曲となるだろう。

津守祥三

津守祥三(Tp/1期生/28歳)

「ヒンデミット特有の力強く、岩のような硬さがある作品です。ヒンデミットの他の曲を聴いたことがある方なら、冒頭を耳にした瞬間に『あっ、これはヒンデミットだな』とわかると思います。トランペット奏者としては体力と精神力が必要な曲。第2楽章では僕がコルネットのソロを担当します。全体を通じて立体的に音楽が構築されていく面白さを感じていただけたら嬉しいです」

A.リード アルメニアン・ダンス パートI

 もはや説明の必要がないほど有名で人気も高い、吹奏楽を代表する曲。スクールバンドから一般楽団、プロ吹奏楽団まで、頻繁に演奏されているいわば《スタンダードナンバー》である。大阪府立淀川工科高校顧問で全日本吹奏楽連盟理事長の丸谷明夫先生は、この曲を年の瀬に演奏・鑑賞される「吹奏楽の《第九》」にしてはどうかと提唱している。
 作曲者のアルフレッド・リード(1921-2005)はニューヨーク市生まれのアメリカの作曲家。生涯に200以上の吹奏楽曲を作曲した。1981年に東京佼成ウインドオーケストラに招かれて来日して以来、毎年のように日本を訪れて演奏指揮・教育活動などを行った。
 全日本吹奏楽コンクールの課題曲にもなった《音楽祭のプレリュード》をはじめ、《エル・カミーノ・レアル》、《序曲「春の猟犬」》など多くの曲が愛されているが、やはりリードの代表作と言えば《アルメニアン・ダンス パートI》であろう。全4楽章の組曲として作曲されたうちの第1楽章に当たる(第2~4楽章は《アルメニアン・ダンス パートII》としてあたかも別の曲のように演奏されることが多い)。「あんずの木」「やまうずらの歌」「ホイ、私のナザン」「アラギアズ」「ゆけ、ゆけ」という5つのアルメニア民謡を原曲としており、移り変わる音楽的な表情の変化が楽しめる。なお、アルメニアとは、トルコやアゼルバイジャン、ジョージアなどと隣接する旧ソビエト連邦の国のこと(アルメニア共和国)。

小野原舞帆

小野原舞帆(Ob/1期生/23歳)

「昭和音楽大学の1年生のとき、吹奏楽の授業で最初に演奏した思い出の曲です。登場する5つのアルメニア民謡はどの曲も大好きで、オーボエは目立つ部分も多いので演奏するのが楽しいです。実際にアルメニアへ行ったことはないのですが(笑)、ソロでは異国的な雰囲気が伝えられるように頑張って吹きますので、ぜひ皆さんに耳を傾けていただきたいです」

オザワ部長 プロフィール

吹奏楽作家。1969年生まれ。神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部文芸専修卒。
著書に『みんなのあるある吹奏楽部』(新紀元社)、『みんなのあるある吹奏楽部ゴールド』(同)、『翔べ!私たちのコンクール』(学研パブリッシング)、『あるある吹ペディア』(同)、『吹部ノート』(KKベストセラーズ)。近著は『きばれ! 長崎ブラバンガールズ 藤重先生と活水吹部7か月の奇跡』(共著/学研プラス)。
インターネットラジオ「OTTAVA」の吹奏楽番組「Bravo Brass ~ブラバンピープル集まれ!オザワ部長のLet's吹奏楽部~」に出演中(毎週火曜日19時より放送)。
現役当時はアルト・テナー・バリトンという3種のサックスを担当。現在はソプラノとアルトを吹く。所有するソプラノ《ヤマハ YSS-875》の名前「ヤマ和(お)」はSKE48・古畑奈和による命名。
吹奏楽よ永遠なれ~!

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