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ボンクリ・フェス2026 “Born Creative” Festival 2026
“新しい音楽”のフェス「ボンクリ」その現在と未来(前編)
ジャンルや形式を超えた新しい音楽ばかりを取り上げる音楽フェスが日本に、ある。大きな劇場を舞台に、世界中から音楽家が集まるフェスは、今回で8回目を迎える。
同フェスのアーティスティック・ディレクターで、作曲家の藤倉大が、今までを振り返り、ボンクリの見どころ・聴きどころについて語る。
同フェスのアーティスティック・ディレクターで、作曲家の藤倉大が、今までを振り返り、ボンクリの見どころ・聴きどころについて語る。
聞き手・執筆:杉田元一(音楽制作)
【序章】
「それだけ言うために集まったの!? メールでいいのに(笑)」
杉田:2017年から藤倉さんがアーティスティック・ディレクターを務め、池袋の東京芸術劇場(以下芸劇)で毎年開催されてきた現代音楽フェスティバル「ボンクリ・フェス(Born Creative Festival/以下ボンクリ)」。2024年は東京芸術劇場(以下、芸劇)の一時休館にともなって中断がありましたが、2026年3月に復活するというニュースを聞いて、まずはいったん胸を撫で下ろしました。ただ同時に、「8回目となる今回が、現在の形式での最後のボンクリになる」そうですね。
藤倉:はい。でも実は、僕自身も「そろそろ最後になるだろうな」というのは、うすうす分かっていたんですよ。ロンドンにいると、日本とヨーロッパの両方の情報が入ってきますから。
ただ、芸術劇場の方から「Zoomで少し話したい」と言われて画面につないだら、かなり神妙な雰囲気で、「ボンクリは次が最後になります」とだけ伝えられたんです。それで思わず言ってしまいました。「えっ? それだけ言うために今回集まったんですか? それならメールでいいのに!」
杉田:藤倉さんなら、本当にそう言いそうですね(笑)。
藤倉:いや、本当にそう思ったんですよ! そのために全員集合でZoomって、こっちも「何を言われるんだろう」と身構えちゃうじゃないですか(笑)。
そもそもボンクリって、最初は“たった1回”の予定だったんです。芸劇の事業企画課長だった鈴木順子さん(現:副館長)から突然、「もし劇場を一度だけ自由に使えるとしたら、どんなフェスをやりたいですか?」と聞かれて。そこで僕は、「人間なら誰でも“新しい音を聴きたい!”という欲求がある。その感覚を軸に、世界中のジャンルを越えた音楽を紹介したい」と答えたんです。
杉田:最初から、「新しい音楽を自由に紹介する」という考え方ははっきりしていたわけですね。
藤倉:でも本当に“1回きり”のつもりでしたよ。初年度なんて、前日までチケットが全然売れていなくて。順子さんと「まあ1回だけでもやれたら楽しいからいいよね」と笑っていたくらいです。でも当日、ふたを開けてみたら長蛇の列ができていて……あれは本当に驚きました(笑)。
ただ、今回こうしてひと区切りを迎えること自体は、僕にはとても自然な流れに感じられるんです。そもそも“1回のつもり”だったものが7回も続いた。それに、芸劇は公共施設だから、スタッフの異動や世代交代、体制の変化もある。そういう意味で、「そろそろ形を変える時期かも」という気配は、ずっとありました。
杉田:「終幕」というより、「転換点」という感じですね。
藤倉:まさにそう。だから今回の最終回は、「ああ、終わりか……」というより、「じゃあ最後は思いきりやろう!」という雰囲気なんです。出演者もスタッフも、みんな同じように感じていると思います。
藤倉:今回の開催が、現体制でのボンクリのラストになることは決まりました。だから今回は、「ボンクリは最後になるからさ、好きなことややりたい音楽をなんでもやっていいから、東京に来て参加しない?」って、いろいろな国の楽団や音楽家の友だちに声をかけていたんです。
そうしたら、みんな「え、最後なの!? じゃあ(自分の国の)助成金申請して渡航費取って行くから!」って(笑)。
杉田:ボンクリは、海外でも「出たいフェス」としての認知度がかなり高まっていると聞いています。
藤倉:そうなんです。ボンクリのホームページも、最低限ですが曲目や作曲家名を英語表記にしていただいたことが、かなり効いていると思います。
「ボンクリって、どんな人が出ているんだろう?」「どんな曲をやっているんだろう?」と思ったときに、サイトを見ればだいたいわかる。今は世界中からアクセスできるわけですから、こういう気遣いはとても重要なんですよ。
杉田:その結果、今回は6カ国からの参加者が集まった。アメリカやノルウェーのアーティストたちはボンクリの常連的な存在でしたが、ポーランドやスロバキアのアーティストの参加は今回が初です。
藤倉:ノルウェーは以前から文化助成が充実していますけど、東ヨーロッパはこの10年で本当に勢いが出てきているんです。
もともと東ヨーロッパの文化は、商業的な成功だけを追い求める方向とは距離を保ってきました。ポーランドの音楽史なしには実験音楽は語れませんし、スロバキアにも、世界的にはあまり知られていないけれど、共産主義時代から放送局に実験音楽スタジオがあったりと、独自の音楽的土壌がある。文化芸術に対する理解と歴史が、とても深いんです。
ここ10年ほどで経済的な基盤も厚みを増していて、文化に対する助成金制度もしっかりしてきているんですよ。
僕は今年(2025年)だけでポーランドに2回行っていますし、スロバキアにも何度も足を運んでいます。ロンドンからウィーンに行くより、僕はブラチスラヴァ(スロバキアの首都)に行くほうが好きなくらいなんですよ。ウィーンからブラチスラヴァは車で40分くらい。音楽的に、いまいちばんエキサイティングな街だと思っています。
杉田:ポーランドやスロバキアの音楽を日本でまとめて聴く機会は、これまでほとんどなかったと言っていいでしょうね。だからとても楽しみです。
藤倉:今回スロバキアから来るクエーサーズ・アンサンブルのリーダーであるイヴァン・ブッファ氏と初めて会ったのは、実は芸劇でのコンサートでした。僕のチューバ協奏曲を取り上げた公演だったと思いますが、彼はそのときが初来日だった。
そのときに意気投合して、ヨーロッパ各地で僕の作品を演奏してくれたり、逆に呼んでくれたりするようになりました。こういう縁が、計画的ではなく、自然に積み重なってきたという感じですね。
杉田:ボンクリの特徴として、ヨーロッパやアメリカだけではなく、日本の伝統楽器による演奏を毎回楽しめる、という点も挙げておきたいところです。
藤倉:僕は以前から、日本のフェスではどうして日本の伝統芸能や伝統楽器の演奏があまり取り上げられないんだろう、と不思議に思っていたんです。日本の楽器、日本の音楽なのだから、日本でこそ積極的に紹介されるべきだと思う。
杉田:今回のボンクリでは、J-TRAD Ensemble MAHOROBAの演奏が聴けるのも楽しみですね。三味線の本條秀慈郎さんと本條秀英二さん、尺八の川村葵山さん、箏の木村麻耶さんと吉澤延隆さん、邦楽囃子の堅田喜三郎さんによるユニットです。
藤倉:そうなんです。個々のメンバーはボンクリの常連ですし、そんな方々が新しいアンサンブルを結成して世の中に出てくるというのは、本当にうれしいことです。
中編・後編へ続く(近日公開)
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大阪府生まれ。15歳で単身渡英しG.ベンジャミンらに師事。これまでに数々の作曲賞を受賞、国際的な委嘱を手掛ける。オペラの国際評価も高く、2015年にシャンゼリゼ劇場、ローザンヌ歌劇場、リール歌劇場の共同委嘱による《ソラリス》を世界初演。20年に自身3作目のオペラ《アルマゲドンの夢》がある。26年2月に《The Great Wave北斎として知られていた芸術家の生涯に基づく全5幕のオペラ》がスコットランドで世界初演予定。23年に4度目となる尾高賞を受賞。近年の活動はリモート演奏のための作品発表や、テレビ番組の作曲依頼等多岐に渡る。録音はソニー・ミュージックジャパンインターナショナルやMinabel Recordsから、楽譜はリコルディ・ベルリンから出版。
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1961年、茨城県生まれ。雑誌や単行本の編集者や音楽ライター、レコード会社でのクラシックやジャズの制作ディレクターを経て現在はフリーランスの音楽制作者/編集者/執筆家。
作曲家・藤倉大とは2014年に『マナヤチャナ(ギタリスト笹久保伸とのコラボレーション)』以来、現在までに10枚以上のアルバムを共同制作。