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山田和樹&東京芸術劇場 交響都市計画 水野修孝/『交響的変容』
山田和樹 次期芸術監督への3つの質問
2025年11月11日 山田和樹 次期芸術監督(音楽部門)が東京芸術劇場を訪れ、来たる2026年5月10日の「水野修孝/『交響的変容』」公演の記者懇談会に臨みました。
東京芸術劇場の新しい芸術監督として迎える最初の公演。その意気込みのほどを、東京芸術劇場からのQ&Aに応えるかたちで、語っていただきました。
Q. 芸術監督としての最初の公演で、なぜこの作品を取り上げようと決めたのですか?
──以前に、水野修孝先生の交響曲第4番を日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で指揮したとき、「これは自分が作曲したんじゃないだろうか?」という特別な感覚がありました。オーケストラから紡ぎ出される音が、あたかも自分の身体から生まれているような不思議な感覚があったのです。それ以来、水野先生の作品群の大ファンになりました。
この『交響的変容』はその中でも超弩級のサイズを誇る作品で、1992年に初演されて以来ずっと、その再演は”不可能”であるとされてきました。”不可能”と聞くと、何としてもそれを実現できないか、という本能レベルで吸い寄せられるものがあり、ずっと蘇演の機会を探していました。そこに東京芸術劇場の芸術監督就任がリンクしたという次第です。
水野先生は現在91歳にして大変お元気でいらっしゃいます。是非、水野先生の目の前で、自分の手によって蘇演を果たしたいという想いが強くありました。
とはいうものの、作品の巨大さもあり、並大抵の企画力や制作力では乗り越えられるものではなく、東京芸術劇場のスタッフの叡智を結集する必要がある作品です。東京芸術劇場全体が一丸となって贈る企画であり、芸術監督としての最初の公演で、是非そのチームワークの凄さを皆さんに見ていただきたいという思いも込めています。
Q. 今回の上演にあたって、特に重視している点、チャレンジしたい点はありますか?
東京芸術劇場というサイズに合わせたアレンジを施しつつ、それでも作品が本来持っている壮絶さや鮮烈さを失わせないようにすることは僕にとって大きなチャレンジになってきます。
オーケストラは、すでにお互いに心の通い合っている読売日本交響楽団。合唱は、東京混声合唱団と栗友会合唱団。この二つの合唱団は初演の際のコンビネーションでもあります。日本大太鼓に林英哲さん。考えうる最高のキャスティングでの総力戦でお送りするこの舞台を、何としても成功させる必要があります。
自分自身もこれほどの巨大作品を指揮するのは初めてのことになるので、演奏会までまだ何ヶ月もあるものの、考えるだけで手が汗ばんでくるほどに、緊張と興奮を抑えられずにいます。
そして、作品自体が巨大であることもそうなのですが、この『交響的変容』から発せられるメッセージには、現代社会にとって意味深いものがあります。ただ大きい作品をやり切って良かったね、で終わるのではなく、あくまでその先を見据えていかなければなりません。Symphonic [交響的]なものは、Sympathy [共感]を生み出していきます。そこには調和と混沌が織りなす世界があります。世界情勢も油断ならなくなっている今こそ、ハーモニーという名の奇跡の価値を見つめ直せればと思っています。
Q. 就任にあたってのメッセージで、山田さんは「池袋から世界への発信」をテーマに掲げられていました。芸術監督として、劇場から今後どのようなことを世界に発信していきたいですか?
──「池袋から世界へ」、「東京から世界へ」、「日本から世界へ」と言うのは簡単なのですが、実際にはとても大変なことです。
東京芸術劇場にはすでに卓越した企画力と制作力が備わっていますが、世界を見据えるには、さらに想像力と創造力を結集させて掛け合わせていく必要があると思っています。それには自分の力だけでは不十分なのです。
和を尊ぶ日本人としての長所をもってして、過去の歴史に学びつつ、新しい価値を生み出していかない限り、世界の扉はなかなか開かれないでしょう。
なので、芸術監督という自分の役割としては、東京芸術劇場という場が、湧水の如く、人材とアイディアが生み出される場になることを目指していくことにあると思っています。一朝一夕にはいかず、すぐには結果も出ないかも知れませんが、今それを目指していかなければならないという使命感のようなものを感じています。
いつかは世界に向かって、東京芸術劇場がプレゼンツするプロジェクトを持って”道場破り”みたいなことが出来たら良いですが(笑)、具体的なことはまだまだこれからになります。抽象的ではありますが、世界のどこにもなかった日本独自のアプローチを礎にした舞台を生み出すことが出来たら最高ですね。