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相撲と音楽が出会うとどうなる!?
「ファソラシどすこい!タコどすこい!」の世界

東京芸術劇場の画像

 東京芸術劇場恒例の「TACT FESTIVAL 2026」。今年のラインナップの中で、「すもう×おんがく」と銘打った公演がひときわ異彩を放っています。公演タイトルは「ファソラシどすこい!タコどすこい!」。なんだかとても楽しそう。でも、いったい何をやるの? 「タコ」ってなに? 公演を制作している「日本相撲聞芸術作曲家協議会(JACSHA)」のみなさんに聞いてきました。

文:宮本明(音楽ライター)

昭和や平成の大ブームを知らない若い世代にも広く親しまれている「相撲」。あらためて考えてみると、相撲の興行はさまざまな音に彩られていることに気づきます。太鼓や拍子木の音。行司や呼出しの声。力士同士がぶつかり合う激しい音。そんな相撲と音、そして音楽との密接な関係に注目した舞台作品が「すもう×おんがく」なのです。
今回の公演で大きな軸になるのは「歌」。お祝いの席などで力士らが節をつけて披露する「相撲甚句」です。私たちは相撲というと年6場所の「大相撲」を思い浮かべがちですが、それだけではありません。日本各地に伝統芸能や神事としての相撲が伝わり、相撲甚句もまたそれぞれの形で受け継がれています。
もっとも今回の舞台は、その相撲甚句そのものの再現ではなく、それをベースに新たに創作されたオリジナルの歌を中心に構成されています。
作曲を手がけるのは、「日本相撲聞(すもうぶん)芸術作曲家協議会=JACSHA(Japan Association of Composers for Sumo Hearing Arts)」の鶴見幸代さん、野村誠さん、樅山智子さんの3人の作曲家たち。いったいどんな音楽になるのでしょうか。

じゃくしゃさんたちの写真/Photograph of JACSHA
日本相撲聞芸術作曲家協議会[JACSHA(じゃくしゃ)] 左から:野村誠、樅山智子、鶴見幸代

タイトルにもなっている「タコどすこい」は、今回重要な役割を果たしている「すがも児童合唱団」の子供たちとのコラボレーションの中で生まれた新語なのですが、その誕生エピソードは、この公演の性格を象徴しています。
JACSHAのメンバーは事前に合唱団の練習場を訪ね、作品の素材を集めるためのワークショップを行いました。そこで相撲甚句を歌って聞かせたところ、子供たちに大ウケだったのが、「タコどすこい」だったのだそうです。元は相撲甚句に出てくる「とこ〜どすこい」という囃子言葉。それが子供たちには「タコ」に聞こえたようで、みんな面白がって「タコ」「どすこい」と連呼し始めたのです。子供たちなりのやり方で、相撲甚句を即座に自分たちのものにしたといえるでしょう。いわば空耳なのですが、相撲関係者によれば、もしタコが相撲を取るとしたら、吸盤を使って相手にぴたりとついて寄れるのは相撲の基本だし、ぐにゃぐにゃと柔軟な身体は脱力の理想形なので、最強の力士になるかもしれないとのこと。子供たちの素朴な感覚から生まれた「タコ」という響きが、はからずも相撲の本質にも通じているというのは、なんとも興味深い話です。

すがも児童合唱団とのクリエイションの様子

今回、「すもう×おんがく」の演じ手と聴き手の関係はボーダレスです。舞台上の土俵を囲むように客席が配置され、会場全体が渾然一体となった空間。実際、全員で一緒に歌ったり、「四股」で身体を動かしたりするコーナーも用意されているそうで、ただじっと座って静かに音楽を聴くだけというコンサートとは趣が異なります。
作業中の制作メモを見ると、「暴れる大ダコ怪獣」「土俵入り体操」「四股ンチェルト」「竜宮城」など、ユニークな不思議ワードがたくさん並んでいて、どんな歌やパフォーマンスが飛び出すのか、わくわくと期待が高まります。

舞台美術イメージ-スケッチ:中村友美(舞台美術・衣裳)

出演は、和洋さまざまな楽器を操るJACSHAの3人と、工藤あかねさん(ソプラノ歌手)、松平敬さん(バリトン歌手)、そしてすがも児童合唱団。さらに元力士の松田哲博さんや宮崎の「木花相撲踊り」で甚句を唄い継ぐ釘元厚子さんも登場し、ジャンルを横断した共演が繰り広げられます。親しみやすいメロディからアーティスティックな声の至芸まで、多彩な「歌」が披露される予定で、JACSHAの3人は、「帰り道には子供たちが、聞いたばかりの歌を自然に口ずさんでいるはず」と、自信満々に手ごたえを語ってくれました。

左から:工藤あかね(ソプラノ)、松平敬(バリトン)、松田哲博(歌、四股/高砂部屋-元一ノ矢)、釘元厚子(歌、三味線/木花相撲踊り保存会)

ちょっと気になるのは、いまの子供たちがはたして相撲に関心を示すのかどうか。しかしそれは杞憂のようです。ワークショップでは子供たちはみんな大喜びで相撲を取り、これまでの活動でも、コラボした高校生たちが自然に嬉々として相撲を取る姿が見られたといいます。舞台上の土俵を前にすれば、私たち大人もまた、幼い日に夢中で組み合った記憶を呼び覚まされて、身体が勝手に反応してしまうかもしれません。ぜひ家族そろって訪れたい公演です。
ちなみに、JACSHAの活動が始まったきっかけは、やはり相撲観戦だったそうです。両国国技館での大相撲。取組の合間は、ひいきの力士の名前を叫んだり、隣の友人とおしゃべりしたり、名物の焼き鳥を味わったりと、思い思いに過ごしている一万人の観衆が、力士の仕切りとともに、一瞬で集中する。その一体感が、まるで指揮者に率いられたオーケストラのように感じられたのだといいます。たしかに! しかも相撲の立ち合いは行司が合図するのではなく、力士同士が呼吸を合わせ、自分たちの間で立つもの。まさに音楽のアンサンブルの極意に通じる要素があります。
相撲と音楽の思いがけない共通点。新たな体験の予感に満ちた「すもう×おんがく」が気にならずにはいられません。

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